【奨学金の保証人になる前に】機関保証との違いやトラブルについて

子どもを大学などへ進学させる際、入学金や授業料などの学費や、毎月の生活費など、高額な出費に頭を悩ませている人は少なくありません。そんな時、頼りになるのが奨学金です。
「日本学生支援機構(以下JASSO)」が実施した「学生生活調査(平成28年度)」によると、同機構から何らかの奨学金を受給している大学生(昼間部)の割合は48.9%にのぼります。
しかし、奨学金の大半は給付型ではなく、将来的に返済の義務を負う貸与型。そのため「保証人」を選任することが受給の条件になっています。
今回はJASSOを例にとり、奨学金を受給するために必要な保証人の条件や具体的な債務の内容など、おさえておきたい基本的な知識をご紹介します。
目次
奨学金の保証人とは?機関保証との違いは?
現在、JASSOの奨学金には、返済の必要がない給付型と、将来的に返済の義務を負う貸与型の2種類があり、大半の奨学生は後者を受給しています。
貸与型は、さらに利息のつかない「第一種奨学金」と、利息のつく「第二種奨学金」に分けられますが、いずれも実態は「貸し付け」であり、「借金」と変わりはありません。
そのため奨学金の受給には、JASSOに対して保証人を選任することが条件となっており、「人的保証制度」か「機関保証制度」のいずれかを選択することを求められます。
人的保証制度とは、将来の奨学金の返済について、奨学生(受給する本人)が、JASSOの定める条件を満たした「連帯保証人」および「保証人」を選任する制度です。
原則として、連帯保証人は親権者(父母など)、保証人は4親等以内の親族で、奨学生や連帯保証人とは別生計の人(おじ、おばなど)を選任することになっています。
万一、奨学生からの返済が滞った場合、連帯保証人と保証人は、JASSOから返済残額を請求される可能性があります。
一方、機関保証制度とは、人的保証制度のような連帯保証人や保証人が必要ない代わりに、保証機関(JASSOの場合は公益財団法人日本国際教育支援協会)が連帯保証を行う制度。
奨学生は、奨学金の中から毎月一定額を保証料として差し引かれます。親が一人っ子のため、4親等以内に保証人を頼める親戚がいないなど、機関保証制度を利用する事情はさまざまです。
また、無利息の第一種奨学金を受給する場合、将来の返還方法として「所得連動返還方式」を選んだ人は、必ず機関保証制度を選択することになっています。
万一返済が滞った場合は、奨学生に代わって保証機関がJASSOに一括返済する「代位弁済」が行われ、その後は保証機関から奨学生に返済の請求が行われます。
代位弁済が行われたという情報は、金融機関が参照する個人信用情報機関に登録されるため、奨学生がクレジットカードや住宅などのローンを利用する際に、何らかの制約が生じる可能性もあり、注意が必要です。
なお一度、人的保証制度を選択し、連帯保証人や保証人を選任すると、原則として制度や人選を変更することはできません。
ただし、連帯保証人や保証人が死亡したり破産したりなどした場合、新たに選任することができます。また、新たな選任が難しい場合は、機関保証制度への切り替えが認められるケースもあります。
このように、人的保証制度と機関保証制度のどちらを選ぶかは、奨学生の家庭環境など諸条件によって異なりますが、どちらを選ぶにせよ、奨学金が「借金」であり、卒業後に長期的かつ計画的な返済が求められることに変わりはありません。
奨学金の保証人になることで起こり得るトラブル
前述したように、奨学金の連帯保証人および保証人には、奨学生の父母とおじ・おばが選任されるケースが大半を占めます。
かわいいわが子や、姪っ子・甥っ子のために、二つ返事で保証人を引き受けてあげたくなるのが人情というものでしょう。
しかし、保証人の意味を十分に理解せずに引き受けてしまうと、将来的に返済をめぐる思いがけないトラブルに巻き込まれる可能性があります。
連帯保証人と保証人の違いとは?
まずは、混同されがちな「連帯保証人」と「保証人」の違いについておさらいしておきましょう。両者は一見よく似ていますが、法律(民法)上は似て非なるもの。
万一、主債務者(ここでは奨学生)の返済が滞った場合、その返済義務を肩代わりする点については共通していますが、肩代わりしなければならない金額や、債権者(ここではJASSO)から請求されるタイミングなどが大きく異なります。
以下で両者の違いを比較してみましょう。
【保証人】
- 債権者からの請求に対して、請求額を1/2に減額するよう求める権利(分別の利益)がある(つまり、保証人と連帯保証人の2人で返済額を割った金額のみを負担すればよい)。
- 債権者から請求があった場合、先に主債務者に請求するよう主張できる権利(催告の抗弁権)がある。
- 主債務者に返済能力があるにも関わらず、何らかの事情で返済を拒否している場合、主債務者の財産の差し押さえなどを要求する権利(検索の抗弁権)がある。
【連帯保証人】
保証人に認められている3つの権利(分別の利益・催告の抗弁権・検索の抗弁権)が、いずれも認められていない(つまり主債務者に返済能力があったとしても、直接請求される場合があり、しかもそれを拒めない)。
以上のことから、連帯保証人には保証人よりも重い責任が課せられているということが分かります。
「あの子に限って、返済が滞るなんてことはないだろう」「まじめに働けば返済できるだろう」と思い込み、保証人を引き受ける人も多いようです。
しかし近年は、大学などを卒業後、低賃金で不安定な職に就かざるを得なかったり、病気などで失業し収入が途絶えたりして奨学金の返済が滞る人が増加。
JASSOの「奨学金の返還者に関する属性調査(平成29年度)」によると、返済が滞っている人の67.8%が「家計の収入が減った」ことを理由に挙げています。
ある日突然、わが子や姪っ子、甥っ子の奨学金返済請求が届きパニックになる…そんな保証人も少なくないようです。
奨学金の保証人をめぐるトラブルの例
それでは、奨学金の保証人をめぐるトラブルの具体例を見てみましょう。
【ケース1】
長男が大学進学する際、父親が連帯保証人になり、父方のおじが保証人になった。長男は卒業後就職したが、うつ病になり退職。転職がうまくいかず、ついには自己破産してしまった。
父親は住宅ローンを返済中だったため一括返済する余裕がなく、民事再生により減額と分割支払いが認められた。しかし、保証人であるおじに残額の請求が届き、おじもまた自己破産してしまった。
【ケース2】
専門学校を卒業後に就職した姪が、非正規職で低収入のため返済が滞り、自己破産。連帯保証人である父親は生活が苦しく、保証人であるおじに全額返済請求が届いた。
おじは請求に応じて全額を支払ったが、後に支払い義務は請求額の1/2であったことを知った。
事前に「分別の利益」を告知しなかったJASSO側の責任を問い、すでに支払った額の1/2を返還するよう裁判を起こして争っている。
どちらのケースも、奨学生の返済が滞ったことにより、保証人になった家族や親族に対し連鎖的に影響が及んでいます。
保証人には60代以上の高齢者も多く、返済を肩代わりすると老後の資金計画が大きく狂い、共倒れにもなりかねません。
「大学(や大学院、専門学校など)を卒業すれば、安定した職に就ける」という思い込みは、すでに過去のものになりました。奨学金の保証人になるリスクは、以前より高まっていると言えるでしょう。
子どもに奨学金を借りさせないためにできること
これまで見てきたように、奨学金の保証人になることには、家族や親族を巻き込みかねない高いリスクが伴います。
しかし、こうしたリスクを回避するために、親の立場でできることもあります。それは、子どもが奨学金を借りなくても、希望する学校に進学できるよう、早いうちから十分な教育資金を準備しておくこと。
ネットで公開されている教育資金シミュレーションを利用すれば、いつまでにどのくらい資金を準備しておけばよいかの目安が簡単に分かります。
詳しくは後述しますが、学資保険も有効な手段の一つ。子どもが生まれた時点で学資保険の資料を取り寄せ、比較検討するのが理想的です。
また、子どもが中高生のころから、進路や学費について、親子で話し合う場を設けましょう。その際、親の収入や家庭の経済状況を、子どもにもある程度開示することが大切です。
「子どもにお金の心配をさせたくない」というのが親心なら、「ここまでは親が負担できるけど、ここからは自分で」とはっきり示すことも立派な親心です。
家庭の経済状況が分かれば、子ども自身が将来の進路を考える際の基準にもなります。お金の話は、家族全員で共有しましょう。
なお、奨学金自体は、学ぶ意欲のある学生をサポートしてくれる心強い制度です。「奨学金には頼らない」と頭から否定するのではなく、上手に利用することも検討しましょう。
JASSOは、2020年4月に入学を予定していた学生から、返済の必要のない給付型奨学金の対象者を広げる新制度をスタートしました。
これは、文部科学省が進めている「高等教育の修学支援新制度」を受けたもので、学ぶ意欲がありながら経済的理由で進学を断念する人を減らすことが目的。受給には世帯収入など諸条件がありますが、利用すれば授業料や入学金もサポートしてもらえます。
学業を疎かにせずにお金を稼ぐ方法とは
かつて学生のアルバイトと言えば、「遊ぶためのお金稼ぎ」や「社会勉強」と考えられていた時代がありました。
しかし今、大学生(昼間)の収入の内訳を見ると、全体の60.1%を家族からの仕送りが占め、次いで19.6%が奨学金、18.1%がアルバイト代になっています(JASSOの平成28年度学生生活調査より)。
授業料の値上げや親からの仕送りの減少を受けて、アルバイトで生活費を補わなくてはならない学生が増えているようです。
しかし、アルバイトのやり過ぎで授業を休んだり、体調を崩して中退したりしてしまっては本末転倒。
親としては仕送り額をなるべく増やして援助すると同時に、わが子には学業に影響のない範囲内で、効率良くお金を稼いでほしいと願う人も多いでしょう。
大学生に人気のアルバイトの中で、比較的高時給のものとしては、家庭教師や、学習塾でのテスト採点や小論文の添削、試験監督、街中でのサンプリングなどが挙げられます。
体力に自信があるなら、イベントの運営や設営スタッフ、警備員、引っ越し作業員なども良いでしょう。また、企業の中には有給インターンを募集しているところもあります。
お金を稼ぎながらビジネスの現場を体験できる上、就職活動で自己PRにも活用できるため人気が高まっています。
こうした「わりのいいバイト」の情報は、学生同士の情報交換で得られる場合も。また、スマホがあれば、日払いや単発の高時給アルバイト情報を手軽に入手できます。
いずれにしても、好条件のアルバイト求人には応募が殺到します。人脈やスマホを駆使して、いかに早くそうした情報を得るかがカギと言えるでしょう。
学資保険や家計の見直しは専門家に相談する
子どもの高額な教育資金は悩ましい問題ですが、早いうちから将来の進学を見すえて準備しておけば、奨学金に頼ることなく、わが子を進学させることも十分に可能です。
教育資金を用意するための手段の一つが、学資保険です。長期的な運用を前提とした保険商品なので、子ども(被保険者)の年齢がおおむね0~5歳前後に限定されているのが特徴です。
親(契約者)に万一のことがあった場合、以後の保険料振り込みが免除されるものが多く、入学など成長の節目に祝い金が受け取れるタイプのものもあります。
計画的に教育資金をためていきたい人、親の死亡リスクに備えたい人などにおすすめと言えるでしょう。
子どもの教育資金を計画的にためるには、家計の見直しも不可欠。どこをどう見直してよいか分からない時は、お金のプロフェッショナルであるファイナンシャルプランナーに相談してみましょう。
第三者の客観的な視点で、家計の問題点や改善点をアドバイスしてもらえます。その際、加入を検討している学資保険があれば、契約内容が適切かどうか相談してみるのもよいでしょう。
まとめ:将来的なトラブル防止のため、奨学金の保証人について正しい理解を!
大学生の2人に1人が奨学金を受給している今、保証人のリスクは決して他人事ではありません。ある日突然、子どもの奨学金返済義務がのしかかり、日々の生活や老後の暮らしを直撃する可能性もあります。
そのようなリスクを防ぐためにも、保証人についての正しい知識を身につけた上で、賢く奨学金を利用しましょう。
保険商品のご検討にあたっては、「契約概要」「注意喚起情報」「ご契約のしおり」「約款」などを必ずご覧ください。
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