高齢者は公的医療制度を利用して入院費用を抑えるのがポイント

今まで健康に過ごしてきた方でも、突然の事故などによって怪我や病気にかかる可能性はゼロではありません。
ここでは、高齢者の入院にかかる費用の相場と、高齢者が活用できる公的補助制度についてご紹介致します。
自分だけでなく、両親が入院するといった可能性も踏まえ、いざという時にきちんと対処できるよう備えておきましょう。
目次
70歳以上の高齢者の入院費用相場はいくら?
*生命保険文化センターが行った調査 令和元年度
まずは、高齢者の方が入院した場合にかかる費用の相場を見ていきましょう。
高齢者の方が入院する理由や平均期間の相場 についても解説していきます。
高齢者が入院する理由
高齢者の場合、がんや脳梗塞 (こうそく)といった病気による入院の割合が高くなっています。
平成26年度の男女別入院理由の割合は以下の通りです。
男 | 女 | |||
70~74歳 | 75歳以上 | 70~74歳 | 75歳以上 | |
脳血管疾患 | 277 | 621 | 162 | 714 |
悪性新生物(がん) | 385 | 483 | 182 | 240 |
心疾患 (高血圧性のものを除く) |
99 | 244 | 53 | 279 |
高血圧性疾患 | 4 | 20 | 4 | 44 |
出典:厚生労働省「患者調査」(平成26年)
この他、ちょっとした転倒でも骨にひびが入ったり、骨折したりして入院を余儀なくされることがあるのも高齢者の特徴です。
高齢者の入院日数平均
現在は医療技術の進歩や国の政策により、入院期間の平均が短くなってきています。
しかし、高齢者の場合、若い方よりも病状の回復に時間がかかる他、病気に関係なく体力の低下に伴う社会的入院が必要な場合も少なくありません。
*厚生労働省のデータ参照
高齢者の入院にかかる費用
医療費の自己負担額は年齢によって異なります。
- 70歳未満の方は3割
- 70歳~74歳までは2割
- 75歳以上になると1割
まで軽減されます。
(現役並みの所得を得ている場合は70歳以上であっても3割負担が必要)
入院に直接かかる費用であれば保険が適用できるため、上記の負担額で済みます。
とは言え、自己負担額には所得や年齢に応じた上限が設けられているので、度を超えた費用負担がのしかかることはありません。
ただし、勤労による収入を得ている場合は、入院中の逸失利益(将来的に得られるはずの収入)も大きなダメージとなります。
支出増と合わせての影響のみならず 、収入減による影響も考えておくことが大切です。
もしもどのようにプランニングしていくべきか分からない、迷う場合は専門家に相談するのも一つの手です。
75歳以上は「後期高齢者医療制度」の対象に
75歳以上の方は後期高齢者医療制度の対象となります。
65歳以上の方であっても、寝たきりなど特定の障害があると認定を受けた場合は後期高齢者医療制度に加入することが可能です。
後期高齢者医療制度の詳細と、加入したあとの負担額などについて詳しく見ていきましょう。
後期高齢者医療制度とは
75歳未満の方については、後期高齢者医療制度に該当する場合でも、広域連合に届出を行うことで被保険者にならないという選択も可能です。
後期高齢者医療制度に加入する場合は、それまで加入していた健康保険(健保)や国民保険(国保) から脱退することになります。
健保の被扶養者も対象となります。
窓口での負担額
後期高齢者医療制度に加入している場合の窓口での費用自己負担限度額 は以下の通りです。
窓口負担 (外来・入院) |
自己負担限度額 | |||
外来 (個人毎) |
入院・外来 (世帯毎) |
|||
現役並み 所得者 |
3割 | 57,600円 | 80,100円+ (医療費-267,000円)×1% |
|
一般 | 1割 | 14,000円 <年間144,000円上限> |
57,600円 | |
低所 得者 |
II | 8,000円 | 24,600円 | |
I | 15,000円 |
ただし、被保険者本人と70歳以上の家族の合計収入が基準に満たない場合は2割負担となります。(生年月日が昭和19年4月1日以前の方は1割)
収入が年金のみで、かつ年収が80万円未満(夫婦2人世帯の場合は130万円未満)の世帯を低所得者Ⅰ、それ以外の方を低所得者Ⅱとなります。
後期高齢者の方の保険料
保険料については、後期高齢者の方がひとりひとり納めることになります。
金額は、所得に応じて負担が必要な「所得割」と、被保険者が均等に負担する「被保険者均等割」を合計したものです。(年間上限50万円)
後期高齢者医療制度に加入する前に健保や国保に加入していた方は、後期高齢者医療制度の保険に切り替わります。
被扶養者の場合も後期高齢者医療制度の保険料を支払うことになりますが、加入後2年間は負担軽減を受けられます。
また、低所得者に対する軽減措置も設けられています。
被保険者と世帯主の所得合計によって、以下のように軽減割合が設定されています。
総所得金額等の合計が下記の金額以下の世帯 | 軽減割合 |
---|---|
33万円 | 7割 |
33万円+24万5千円×世帯に属する被保険者数(被保険者である世帯主を除く) | 5割 |
33万円+35万×世帯に属する被保険者数 | 2割 |
保険料は口座振替や納付書を通じて市区町村へ納める形です。
ただし、介護保険料との合計が年金額の2分の1を超える場合は普通徴収となります。
高齢者の高額療養費制度とは
高額療養費制度とは、一定額以上の医療費を自己負担した場合、基準を超えた分の金額について払い戻しを受けられる制度のことです。
医療費の負担額は、現役並みの所得がある方を除き、70歳以上の方は2割・75歳以上の方は1割で良いことになっています。
ですが入院期間が長引いたり、症状が重く治療内容が増えたりすると、医療費が高額になってしまう可能性は十分にあります。
そのため、月々の医療費用の自己負担額には上限が設けられているのです。
高額療養費制度の申請を行うことで、上限を超えた部分について費用を返してもらえるのがこの制度の特徴。
ただし、申請してから実際にお金が返ってくるまでには数か月の待機時間があります。
またいったん 、一旦は自分自身で建て替えて費用の支払いをしなくてはいけないので、一時的な資金不足が懸念されます。
高額療養費の自己負担限度額 と、建て替え払いが難しい方におすすめの制度について見ていきましょう。
高額療養費の自己負担限度額
高額療養費制度による自己負担の限度額は以下の通りです。
所得区分 | 自己負担限度額 | ||
外来 (個人ごと) |
外来+入院 (世帯ごと) |
||
現役並み所得者Ⅲ (標準報酬月額83万円以上) |
252,600円+(総医療費-842,000円)×1% 実際の医療費が842,000円を超えた場合、超えた分の1%の額を加算 (高額療養費として払い戻した月数が過去12か月で 3か月以上該当する場合、4か月目以降は140,100円) |
||
現役並み所得者Ⅱ (標準報酬月額53~79万円) |
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% 実際の医療費が558,000円を超えた場合、超えた分の1%の額を加算 (過去12か月で3か月以上該当する場合、4か月目以降は93,000円) |
||
現役並み所得者Ⅰ (標準報酬月額28~50万円) |
80,100円+(総医療費-267,000円)×1% 実際の医療費が267,000円を超えた場合、超えた分の1%の額を加算 (過去12か月で3か月以上該当する場合、4か月目以降は44,400円) |
||
一般 (標準報酬月額26万円以下) |
18,000円 (年間上限144,000円) |
57,600円 (過去12か月で3か月以上該当する場合、4か月目以降は44,400円) |
|
低所得者 | Ⅱ | 8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ | 8,000円 | 15,000円 |
限度額適用認定証を活用しよう
限度額適用認定証とは、高額療養費制度の申請手続きの手間を省くために有効な証明書のことです。
前述した通り、高額療養費制度では払い戻しまでに数か月かかる他、一時的に自分で費用の建て替え払いを行わなければいけません。
高齢者の方は度々手続きに行くというだけでも大変ですし、自分が対象であることを知らずそのままにしてしまう可能性もあるでしょう。
そこでおすすめしたいのが限度額適用認定証です。
限度額適用認定証を取得すれば、病院の窓口に提示するだけで請求費用が限度額までにとどめられます。
払い戻しを待つ必要もなく、建て替え払いもしなくて済むので費用負担を大幅に軽減できます。
入院の際は何かとお金がかかるため、手術費用などの負担を減らせるのは非常に有効と言えるでしょう。
入院期間が月をまたぐ場合は支払いに注意が必要ですが、月々の医療費負担を抑えたい方はぜひ活用したい制度となっています。
高額な医療+介護保険料には高額介護合算療養費も
高額介護合算療養費とは?
高齢になると、介護サービスが必要になる人も珍しくありません。
さらに、医療費に対する高額療養費制度にあたるものとして、高額介護サービス費という仕組みがあり、自己負担額の限度額を超えた場合は、超えたぶんが高額介護サービス費として支給されます。
こうした制度はあるものの、要支援・要介護状態の人がいる世帯が医療費も支払うことになった場合、医療費と介護費のダブルの出費となり、負担が増します。
限度額は高額療養費制度と同じ所得区分によって段階的に異なり、世帯に70歳未満の人がいる場合と、70歳以上の介護保険受給者のみの場合とで異なります。
所得区分 | 自己負担限度額 | ||
70歳未満の受給者がいる世帯 | 70歳以上の受給者のみの世帯 | ||
現役並み所得者Ⅲ (標準報酬月額83万円以上) |
212万円 | ||
現役並み所得者Ⅱ (標準報酬月額53~79万円) |
141万円 | ||
現役並み所得者Ⅰ (標準報酬月額28~50万円) |
67万円 | ||
一般 (標準報酬月額26万円以下) |
60万円 | 56万円 | |
低所得者 | Ⅱ | 34万円 | 31万円 |
Ⅰ | 19万円 |
自己負担限度額が67万円になる世帯で、1年間に医療保険の自己負担額が30万円、介護保険の自己負担額が45万円だったとしましょう。
両者を合算すると、75万円の自己負担です。しかし、高額介護合算療養費の制度により、限度額67万円を超えた8万円が支給されるというわけです。
高額介護合算療養費の申請方法
高額介護合算療養費の支給は、負担した医療保険と介護保険の割合に応じて、医療保険(健康保険または国民健康保険)と介護保険からそれぞれ支給される形です。
支給を申請するには、まず、介護保険について、保険者(市町村)に申し出て自己負担額証明書を交付してもらいます。
その後、医療保険の保険者(健康保険の場合は健康保険組合などに、国民健康保険の場合は市町村)に介護保険の自己負担額証明書とともに申請することで、医療保険・介護保険からそれぞれ支給があります。
入院費用に備えて医療保険は必要?
医療費に対する制度は高額療養費制度だけでなく、確定申告時の医療費控除による還付や一部負担金免除制度など様々もの な制度があります。
入院したことで受ける経済的リスクに対する備えや医療保険に加入した方が良いケースについて詳しく見ていきましょう。
入院にともなう経済リスクの対策
生命保険文化センターの調査によると、入院費用をまかなう手段として約7割の方が公的医療保険を挙げています。
また、8割を超える方が生命保険や損害保険へ加入して備えているという結果でした。
生命保険は、主に死亡した場合に対する保障となっており、被保険者が亡くなったときに保険金を受け取ることができます。
一方、医療保険は怪我や病気にかかった医療費に対して保険金が出るという点で違いがあります。
怪我や病気はいつどんな状況で患うか分からないので、健康なうちに加入しておくことがおすすめです。
医療保険に加入した方が良いケース
高齢者の方は高額療養費制度に加え、後期高齢者医療制度による手厚い保障を受けることができます。
そのため、月々の医療費負担が大きくて払えないという事態に陥る可能性は少ないでしょう。
しかし、入院費用の中には食費や差額ベッド代、日用品費用など保険が適用できない費用もたくさんかかります。
また先進医療による治療費用なども保険の適用ができません。
入院が長引きそうな場合や先進医療を受けたい場合は、それらに対応した保険に加入することで負担を抑えられます。
公的医療保険だけではカバーしきれない部分を補うのが民間に医療保険の役目です。
高齢者が医療保険に加入する際の注意
若い頃から保険に加入している場合は良いですが、高齢者になってから加入を検討する際は注意が必要です。
怪我や病気にかかるリスクが高まってから保険に加入する場合、月々の保険料が高くなる傾向があります。
また、過去に病歴がある方は、特定の保障を受けられないこともあります。
30代で保険に加入した場合と70歳で加入した場合では、毎月の保険料は4倍ほども変わってしまうのです。
過去の病歴に関しては、どの程度遡って確認するのかは保険会社や保険商品によって異なりますが、がんのような再発率の高い病気の場合は条件に引っかかる可能性が高いです。
医療費の備えに不安がある方はプロに相談がおすすめ
入院費用がどのぐらいかかるのか、自己負担額が大きくなってしまわないか不安など、医療費に関する悩みは尽きません。
お金のことは、豊富な知識を持ったファイナンシャルプランナー(FP)へ相談してみるのも1つの方法です。
複雑な保障の仕組みや保険商品の比較など、自分だけでは決められないという場合はファイナンシャルプランナーへ相談するのもおすすめです。
また、大きな病院の場合は、ソーシャルワーカーが常駐してることも少なくありません。
家庭の状況に合わせた的確なアドバイスをもらえるかもしれないので、一度利用してみてはいかがでしょうか。
まとめ
- 高齢者の入院費用は一般の方よりも安いが、長期化すると高額になる可能性も
- 高額療養費制度や後期高齢者医療制度など高齢者への保障は手厚い
- 公的医療保険だけでは不安という場合は民間の医療保険も検討を
高齢者の方は若い方と比べて入院期間が長期化しやすく、様々なところで費用が発生します。
費用負担が積み重なって支払いきれないということにならないよう、きちんと備えておくことが大切です。
保険商品のご検討にあたっては、「契約概要」「注意喚起情報」「ご契約のしおり」「約款」などを必ずご覧ください。
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